今回はロバート・B・チャルディーニにより2014年に発行された本書、【影響力の武器】について紹介したいと思います。著者のロバート・B・チャルディーニは社会心理学者で、現在はアリゾナ州立大学の教授をされています。本書は科学的知識に基づき、
「品薄な商品ほど、なぜ欲しくなるのか」
「高い宝石ほど売れていく」
などの日常生活に潜む影響力を利用したビジネスや日常の人の行動を分析し、なぜ人は動かされるのかという影響力について書かれています。この本を読むことで、仕事に活かせたり、また悪徳商法などに引っかからないための自己防衛法を身に着けることができます。今回は内容を分かりやすく要約していきたいと思います。
返報性
人から何かプレゼントをされたら、何かお返しをしなければならない。このように、人は他人から何かしてもらったら、お返しをせずにはいられません。心理学者デニス・リーガンによる研究でも少しの親切によりチケットの売れた枚数は桁違いだったそうです。また、試供品も返報性を使ったビジネスです。普段、スーパーでの試食をしてしまうと、その商品を買わなくてはならないと後ろめたい気持ちになったことはあると思います。私たちの周りには、この返報性のルールを使って様々な人が近寄り、小さな親切をし、それに対するお返し(例えば商品の購入やサブスクの契約など)を求めてきます。それに対する防衛のためにもこのルールは知っておくと対処がしやすいのではないかと思います。
コミットメントと一貫性
「最後に断るよりも最初から断る方が簡単だ」
人は自分の言葉や考え・信念を一貫したものにしたいと考えます。一貫性を保つことで社会から評価されたり日常生活に有利であったり、将来困難な局面に出くわしたときにその経験が生きるからです。たとえば商談の際に客から承諾を得る為に、客の話(希望)をまずは聞き、相手のコミットメントを確保します。客はコミットメントに合致した要求を受け入れやすくなり、また、一貫性を保つために最初の希望を修正することができなくなります。商談のプロはこのコミットメントと一貫性に着目して客を取り込みます。私たちが客の立場であれば、その商品が必要でない場合は一貫性を否定してでも断る強い心が必要です。
社会的証明
「群衆は悪魔的な強さで人を惹きつける」
社会的証明の原理とは、人がある状況で何を信じて判断・行動するのかは、他の人がどのように判断・行動しているかに左右されます。これは、①状況が不確実な時と②類似性、すなわち自分と似た人の指示に従う傾向という2つの条件下で強い影響力を発揮します。例えば、街中を歩いていると目の前で人が倒れたとします。あなたはどのような行動をとるでしょうか。多くは野次馬の一部と化し、適切なBLS(一次救命措置)をとることができません。BLSを行うことが正しいにも関わらず、周りが動かなければ自分も動けなくなってしまいます。テレビCMでも大衆の世論を操作するような報道がなされたりします。まずは一次情報に触れ、そして周りに流されず勇気をもって正しい判断を行えるようにすることが重要です。
好意
「優しそうな顔をした泥棒」
人は自分が好意を持っている人に対してイエスという傾向があります。当たり前の事ではありますが、異性やビジネスの場面で、そもそも人間関係全般で相手から好意を持ってもらいたいと思うのは当たり前のことですが、通常そう簡単にはいきません。好意に影響するものとして、ハロー効果を生じさせる①身体的な魅力、②類似性、③繰り返しの快適な接触が挙げられます。何か買い物をする際にお店のスタッフは否定的な言動は取りません。お世辞でもお客を褒め、自分に好意を持ってもらい最終的に商品を買ってもらうように誘導します。購入前には冷静になって購入目的を見返す必要があり、また、好意を持ってもらうためには上記の3つを行うと成功の近道かもしれません。
権威
医師から言われたことは素直に従う。私たちは権威者の言う事を素直に従う傾向があります。医師や弁護士、国会議員など権威者ですがその前にその道の専門家で、私たちを正しい道に導いてくれます。ただ、日常に潜む権威は本当の権威なのか。高級車が道に割り込んでくると素直に道を空けるが、軽自動車では道を譲らない。肩書や見た目で権威者となっているのではないか。そこに専門性や誠実さがなければ注意が必要です。悪意を持つ権威者ははじめ私たちが不利となる情報を提供し、その後その解決策を提案し誠実さをアピールします。権威者の前でも過度な緊張や警戒をせずに、権威者の指示に従うべきか否かの区別がつけられるようになる必要があります。
希少性
「何かを愛するには、それを失う可能性を実感すればよい」
よく店頭やチラシ、広告で「数量限定」「最終●●」といった言葉を目にします。これは希少性の原理を利用した承諾誘導の戦術です。希少性の原理の効果を高めるためには①手に入りにくいものはそれだけ貴重なものである、②ものが手に入りにくい状況では我々の正常な判断を鈍らせる、の2つの要因があります。我々消費者側からすると、冷静な判断がしがたい状況に追い込まれており、こういう時こそ一度立ち止まって考えることが重要となります。
まとめ
多くの研究から人がどのような心理メカニズムで動かされるのか解明された本書。この本を読むことで、何か画期的な騙されないための防衛法が身につく、という訳ではありませんが、人はどのように影響力を与えるのかを知ることは、物事を冷静に判断することができるようになる一つの方法だと思います。騙されないための防衛法を身に付け、そして、人に良い影響を及ぼすことができる。本書はそんなヒントを与えてくれる良書です。
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